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2008年10月19日
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皇紀 2668年 10月19日
もののふ の心を書いた名文を紹介したい。
「東郷大将連合艦隊解散の訓示」
訓示
連合艦隊解散の訓示二十ヶ月にわたった戦いも、すでに過去のこととなり、
我が連合艦隊は今その任務を果たしてここに解散することになった。
しかし艦隊は解散しても、そのために我が海軍軍人の務めや責任が軽減する
ということは決してない。
この戦争で収めた成果を永遠に生かし、さらに一層国運をさかんにするに
は平時戦時の別なく、まずもって、外の守りに対し重要な役目を持つ海軍が、
常に万全の海上戦力を保持し、ひとたび事あるときは、ただちに、その危急
に対応できる構えが必要である。
ところで、戦力というものは、ただ艦船兵器等有形のものや数だけで定まる
ものではなく、これを活用する能力すなわち無形の実力にも左右される。
百発百中の砲一門は百発一中、いうなれば百発打っても一発しか当たらな
いような砲の百門と対抗することができるのであって、この理に気づくなら、
われわれ軍人は無形の実力の充実すなわち訓練に主点を置かなければならない。
この度、我が海軍が勝利を得たのは、もちろん天皇陛下の霊徳によるとは
いえ、一面また将兵の平素の練磨によるものであって、それがあのような
戦果をもたらしたのである。
もし過去の事例をもって、将来を推測するならば、たとえ戦いは終わったとは
いえ、安閑としてはおれないような気がする。
考えるに、武人の一生は戦いの連続であって、その責任は平時であれ戦時
であれ、その時々によって軽くなったり、重くなったりするものではない。
ことが起これば戦力を発揮するし、事がないときは戦力の涵養につとめ、
ひたすらにその本分を尽くすことにある。
過去一年半、あの風波と戦い、寒暑に耐え、たびたび強敵と相対して生死の間
をさまよったことなどは、容易な業ではなかったけれども、考えてみると、
これもまた長期の一大演習であって、これに参加し多くの知識を啓発することが
できたのは、武人としてこの上もない幸せであったというべきであり、どうして
戦争で苦労したなどといえようか。
もし武人が太平に安心して目の前の安楽を追うならば、兵備の外見が
いかにりっぱであっても、それはあたかも砂上の楼閣のようなものでしかなく、
ひとたび暴風にあえばたちまち崩壊してしまうであろう。まことに心すべきである。
むかし神功皇后が三韓を征服されて後、韓国は四百余年間我が国の支配下
にあったけれども、ひとたび海軍が衰えるとたちまちこれを失い、また近世に
至っては、徳川幕府が太平になり、兵備をおこたると、数隻の米艦の扱いにも
国中が苦しみ、またロシアの軍艦が千島樺太をねらってもこれに立ち向かう
ことができなかった。
目を転じて西洋史をみると、十九世紀の初期、ナイル及びトラファルガー等
に勝った英国海軍は、祖国をゆるぎない安泰なものとしたばかりでなく、
それ以降、後進が相次いでよくその武力を維持し世運の進歩におくれな
かったから、今日に至るまで永く国益を守り、国威を伸張することができたのである。
考えるに、このような古今東西のいましめは、政治のあり方にもよるけれども、
そもそもは武人が平和なときにあっても、戦いを忘れないで備えを固くしているか
どうかにかかり、それが自然にこのような結果を生んだのである。
われ等戦後の軍人は深くこれらの実例を省察し、これまでの練磨のうえに戦時
の体験を加え、さらに将来の進歩を図って時勢の発展におくれないように努めな
ければならない。
そして常に聖論を奉体して、ひたすら奮励し、万全の実力を充実して、時節の
到来を待つならば、おそらく永遠に護国の大任を全うすることができるであろう。
神は平素ひたすら鍛練に努め、戦う前に既に戦勝を約束された者に勝利の
栄冠を授けると同時に、一勝に満足し太平に安閑としている者からは、ただちに
その栄冠を取り上げてしまうであろう。
昔のことわざにも教えている「勝って、兜の緒を締めよ」と。
明治三十八年十二月二十一日
連合艦隊司令長官東郷平八郎